人として

悪魔のなさけとお釈迦様の言葉

古代神話にこんな話があります。

その昔、ある悪魔がある街に現れて、
「今日から、お前たちの物すべて俺は奪い取る事にする。しかし、悪魔にも情けはある。明日までに残しておいてほしいものを一つだけ書き出せ。それ以外のものは、一切俺が奪い取るからな。」

と言い残して、悪魔はひとまず立ち去った。
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さあ、町の人はてんやわんやの大騒ぎ。
「俺はお金だ」「俺は喰い物」「わたしは家だ」「いや、私は名誉だ」「わたしは宝石よ」と、それぞれ色々な物を書きだした。

あなただったら何を書きますか?

悪魔はたった一つだけしか見逃してくれないのです。

さて、一夜明けてみると、その町には何と、たった一人の人間だけしかいなくなっていた。

もうお分かりでしょうか?お金だ、家屋敷だ、やれ宝石だ、やれなんだと書きだした人々は、最も肝心な「命」を忘れていたのですね。

たった一人だけが「命」と書いていたので生き残ったと言う話です。

確かに、人々にとって、お金や、家、名誉だ、愛などはみんな大切な物ではありますが、命あってのものです。それ以外は人生の一部みたいなものです。その人生の一部が手に入った入らないで、悩んでいないか・・・と、かの中村天風師は言っております。

また、命の大切さの話で、このような話があります。

お釈迦さまが弟子の阿難(アナン)という弟子に「そなたは人間に生まれた事を、どのように思っているか」と尋ねられました。

「大変喜んでおります」
阿難がそう答えると、お釈迦さまが、重ねて尋ねられました。

「ではどれくらい喜んでいるか」
阿難は答えに窮します。

するとお釈迦様は、一つのたとえ話をされます。

「果てしなく広がる海の底に、目の見えない亀がいる。その亀は百年に一度、海面に顔を出す。広い海には一本の丸太が浮いている。その丸太の真ん中には、小さな穴がある。丸太は風に吹かれるまま、西へ東へ、南へ北へと、漂っている。阿難よ百年に一度浮かび上がる、その目が見えない亀が、浮かび上がった拍子に、丸太の穴に、ひょいと頭を入れる事があると思うか」

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阿難は驚いて答えます。

「お釈迦様、そのようなことは、とても考えられません」

「絶対ないと言いきれるか?」

お釈迦さまが念を押されると、
「何億年、何兆年の間にはひょっとしたら頭を入れる事があるかもしれません。しかし、『ない』といってもいいくらい難しいことです。

阿難が答えると、お釈迦様は

「ところが、阿難よ、私達人間が生まれる事は、その亀が、丸太棒の穴に首を入れる事があるよりも、難しい事なんだ。有り難いことなんだよ」と教えられたのです。

私達は人間に生まれたことを当然のように思っていますが、人間として生まれてくることは、何億年、何兆年に一度めぐってくるか否かというくらい、稀(まれ)なことなんです。

「有ること難し」とは、つまり珍しく貴重なことなんです。存在することが難しいと、お釈迦様は説いています。

ありがとうの語源は、「有り難い(有り難し)」ということはよく知られていますが、このような話があったのです。

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